コンサルタントインタビュー:「これ以上下げられません」はあり得ない!間接経費削減のプロが語るノウハウ Part 2

前回の記事では、間接経費削減のプロとして活躍されている笠井恒氏(以下敬称略)に、間接経費削減サービスを提供する各種サービスプロバイダーの違いや、経費削減後にリバウンドしないためのヒント等を事例を基に伺いました。第2回目の本記事では、笠井氏が行う実際の間接経費削減プロセスを事例と共に解説いただきました。

<Part 1はコチラ

間接経費削減のプロセスと事例

プロが行う間接経費削減のプロセスとは?

塚本:事例を基に間接経費削減ってこうやりますよ、というのを一から教えていただきたいのですが。

笠井:事例は、色々ありますがレストランチェーンのびっくりドンキーさんの例は面白いんじゃないかと思います。僕が担当したのは5年ぐらい前になります。この経費削減プロジェクトでは、僕とびっくりドンキーさん側からも1名社員の方をつけてもらって推進しました。

その時は、物品とサービスも含めて間接経費40品目くらいを対象にしました。間接経費は全部で63品目あって、取扱高(支出額)で90億ぐらいありました。結果、全部で24%位の削減になりました。購買額にして約23億円のコストダウンです。

塚本:そうなんですね。まず何から手を付けたんでしょうか。

笠井:どの企業さんに入っても、最初はやることは一緒です。まずは総勘定元帳をもらいます。

そこから、全部の支出を洗い出します。でもね、総勘定元帳からだけだと、そんな大したことは出ないんです。これだけだと何を買っているのかよく分からないんですね。

なので、全部摘要欄を見て紐づけていきます。全て分類します。ボールペンとか用紙とか、清掃費用なのかどうなのかとか。清掃費用の中でも、普段の清掃なのかそれともポリッシャーと言ってワックスをかけたりするものなのかとか。調理場の清掃って言っても何してるんだ?とか。廃棄物処理とかの記載の場合、一般廃棄物と産廃等廃棄も様です。ゴミの種類が違う。一般廃棄物は、業者にお金払って取りに来てもらいますよね。そういうの全部洗い出していくんです。

こういった洗い出しと分類をやるのに2週間位かかりますね。分からないところは、クライアントに確認しないといけないのでこれ位はかかりますね。

ここまでやったらパレート分析をします。普通のコンサルさんであれば、このパレート分析を基に「この2割の所からやりましょう」、「支出の大きいところからやりましょう」って言うと思います。僕はこれはやりません。支出の金額と削減できる金額は違いますから。

塚本:と、言いますと?

笠井:普通は、というか教科書通りに考えると、「支出が多いから、それ下げるのがいいだろう。下がりやすいでしょう」と、なると思うんです。でも、削減率が品目によって違うので、削減額でいうとそれはパレート分析で出したものと同じ順には並ばないんです。ロングテールの下の方で、ちょっとしか買ってないけど高いものがあったら、それの方が削減額は大きかったりする。削減率が高いから。

塚本:削減可能性の高い物から順に並べた方が、短期で一番見えるコストカットになるということですね。

笠井:そうです。効果が出やすいんです。それが短期間で効果を出す一番のコツです。

塚本:それはこの2週間の品目の紐づけから、分析の中でどれだけの削減率が可能なのかというのを併せて2週間で見切ってしまうんでしょうか。

笠井:見切ってしまいます。まずね、支出といってもモノとサービスがあります。そして、サービスの方が下がりやすい。だから、まずはそこから当たりをつけます。なので、当たりをつけたらその辺りの請求書をお客さんから全部もらいます。請求書を全て舐めると色々な記載があるわけですが、その中で「一式表記」とかあるんですよ。これはね必ず取ってあります。

この辺りは経験が物を言うところでもありますが、見ると大体分かるんですね。「一式」の中に何が含まれてるのか、それが高いのか安いのかっていうのも大体わかる。

塚本:経験値から、「盛ってる」とか「何%くらい下げられるな」とかが分かる、と。

笠井:そうです。例えば、清掃の人夫単価ですが、一番下のベンチマークは当然最低賃金です。ただ、その下のベンチマークというのがあります。これは、国交省が出してるものですが、一覧が一年に1回とかのペースで出ています。これを見ると、多分10%位乖離があって13,400円とか13,500円くらいなんですよ。それを見ながら大体こんなもんだって当りをつけます。でも、そこにはちょっとポイントがあります。清掃でも、高齢者にお願いをするかどうかでまた変わるんです。これは、国交省の人夫単価適用されません。適用されないので、そこを使ってるのかどうかというのも確認しますね。 

そういうのを全て見たうえで、最終的に削減額が一番大きそうなところから並べるリストを作ります。パレート分析のリストは最初に見せて、次に本命であるこの削減額が大きい順に並べたリストを見せ、「でも、実情はこうなんですよ」と。「だから、ここからやりましょう」とご説明します。

塚本:企業さんはそこに対して違和感なくすんなり受け入れられるものですか。

笠井:支出金額と削減金額は違います、というご説明をしますので腹落ちしてもらえます。

相見積もり30社?!サプライヤー交渉への入り方が違う!

塚本:では、そこから、「じゃあ、実際に削減額の大きいモノから始めましょう!」で、3週間目が始まるわけですね。

笠井:そうですね。ここから3週間目が始まります。まず、このモノを発注している主管部(発注権限のあるところ)の人たちに、各サプライヤーと互恵関係があるか必ず確認します。互恵がなければ変えられる。変えるつもりがあれば相見積を出します。先ほど申し上げた通り、色々なサプライヤーに声をかけます。相見積もりは、大体30社位呼んじゃいますね(笑)。

塚本:1品目にですか?!

笠井:うん。でも30社から全部見積が出てくるわけじゃなくて、大体出てくるのって15社くらい。半分くらいです。

塚本:でも15社って相当多いですよね。

笠井:なんでそんな大きい数字にするかというと、サプライヤーって必ず「何社に相見積取りますか?」と、聞きますよね。「30社です」と、言うと辞退するところは辞退します。でも、本当に「取りたい!」と思っている、或いはそれでも取りに行こうと駆り立てる状況にある人たちは絶対に取りに来ます。そして、相当安い値で入れてきます。ここが狙いです。

互恵関係で、「変えれない」と企業さんが言う場合、まずは参考見積を何社か取って、現行の取引価格より下がった見積もりが出た場合、その値段を基に現行のサプライヤーと相対交渉をします。

塚本:どのような交渉方法を取るのでしょうか。

笠井:変えたくないと言っている企業担当の方にも同席していただきつつ、サプライヤーの方と直で僕が交渉します。サプライヤーが、「変えられない。これが目いっぱいです」って言ったら、そのサプライヤーさんと一緒にそのサプライヤーさんにモノを下ろしてる取引先に行って、彼らのコストカットをすることで下げてもらいます。

塚本:え!?そこまでやるんですか?!

笠井:やります。やりますよ!

塚本:サプライヤーさんはそれを承諾されるんですか?

笠井:承諾していただきます。「一緒にやりましょう!御社のメリットにもなるはずです」と。

塚本:「あなたの利益にもつながります」と、いう訳ですね。確かに他の取引先に対して売値は変えなくていいわけですら、サプライヤーにとっても利益高になりますね。

笠井:そうです。例えば、イセトーさんとかはそれですごく仲良くなりました。

「いやぁ、うち無理ですから。物流もちゃんと組んでるんで無理ですよ」と、イセトーさんはおっしゃってたんですけど、僕が彼らと一緒に彼らの委託先に行って、そこのコスト構造見て、「ここ、多分もうちょっと安くできますから」と言って、その下請けの取引先に安くしてもらったんですよ。それで、イセトーさんに、「イセトーさん、これで出来ますよね。お願いします」って。

 コスト削減の世界って、要はサプライチェーンの中でどこに泣いてもらうしかないんです。痛みが必ずあります。その痛みをどこか一社に持ってもらうのか、みんなに持ってもらうのかなんです。その積み重ねです。僕は、「原料のところまで行けば安くなるんだったら、原料のところまで行って安くします!」ってスタンスでやってます。でも、痛みだけにはならないように配慮します。関係性がとても大事ですし、そうでなければこの仕事は続きません。

塚本:相見積もりや交渉だけでここまで工数を割かれるとなると、3週間目から始まっていったいどれ位かかるんですか?

笠井:3カ月くらいですかね。1品目見積もりを取るのに大体1カ月は見る必要があります。それから交渉をするのに2カ月位かな。相見積でポンと決まればいいですけど、相対の場合は1カ月、2カ月かかります。なので大体見積もりを取って全部の項目をやり終わるのに、パラで色々回しますけど、だいたい3カ月~4カ月位は見た方が良いですね。

塚本:目安として対象となる品目数としてはどれぐらいになるんですか?

笠井:基本全部。全間接材です。と、いうのは、まとめられそうにないものもまとめてしまうっていうのも結構あるんですよね。費目同じものじゃなくても、例えば「営業の人が持つバッグもレンタカーと一緒に買うから安くしてよ」って、オリックスに言うとか。そういうこともするんです。

なので、対象となるものは、ロングテールでも本当にテールの下の方って少ないじゃないですか。そういうのも、「おまけ」としてそういった品目を扱える業者さんのところに持っていくっていうのもやりますから(笑)。

塚本:楽しんでやってらっしゃるんだろうなというのがすごく伝わってきます。

笠井:僕、サプライヤーさんに下げてもらうためだったら、清掃手伝っちゃったりしますからね(笑)。

塚本:生きがいを持ってそこに突っ込まれているというのがすごく伝わってきます。びっくりドンキーの事例に戻りますが、ここで行った交渉として何か具体例とかありますでしょうか。

笠井:店舗解体ですかね。産廃業者さん呼んで店舗解体のコンペをしました。原状回復費用の部分ですけど、原状回復して店舗を貸主に返さないといけないじゃないですか。その原状回復のために内装壊したりしますよね。それも解体屋さんのコンペをしました。 

産廃業者って都道府県で認可を出してるんで、その県にしか行けないんです。もっと言うと、その県の中でもうすみ分けも出来ちゃってるんです。「そこには進出できません」「そこ出せません」って、感じなんですよ。縄張りがあるというか。

とは言えですね、他県のところには入りたいって業者もいるんです。そういう意欲のある業者に対しては、許可をもらう所から僕がお手伝いをして、サプライヤーを増やします。それで他県から連れてきちゃう。

塚本:それって普通のコンサルはなかなかやらないですよね。

笠井:ですね(笑)。「基盤を一緒に築きましょう!」って、言って他県から連れてきちゃいますからね。

塚本:コンペになるにしても、産廃費用をどうやって抑えたんでしょうか。

笠井:産廃業者のコスト構造は、産業廃棄物として出てくる木とかそういうものを廃棄するための処分場の費用、トラックの費用、解体する人の人件費、あと管理費で構成されています。結論を言うと、25%くらい下げました。何故25%下がったかというと、産廃業者さんが持って帰ったものの中で売れるもの、これを全部僕が洗い出したんです。でも、ただ洗い出すのではなく、「ここに売ると高く買ってくれますよ」という買取屋のリストも作って渡したんです。それで、「ほら、これだけ下げれますよね」と。

塚本:ある意味、業者さんのコンサルにもなりますよね。

笠井:そうですね。やっぱりどこかに痛みだけを押し付けるのは良くないですからね。なかなかいないタイプのコンサルだとは思います。でも、そこまですることによって、次に店舗解体の案件が来た時に、彼らに声をかければ絶対良くしてくれます。そういう関係性ができる。

「下げてください。下げてください。多分これだけ下がりますよね。なぜならばなんとかだよね」って、ロジックだけ言って交渉するのではなくて、「これも含めて下げてもらうから、御社も絶対に食いっぱぐれないように一緒に交渉しますから」と。その心意気があるかどうかなのではないでしょうか。

塚本:そうですね。その通りだと思います。でも、それを実際に実直に実行出来る方は珍しいと思います。

笠井:そうですね。やっぱり好きなんだと思います。

 削減効果を最大化するためには?タイミングと高利益体制の恒常化が肝!

塚本:間接経費削減のプロセスは、基本的に、最初の2週間で支出品目の洗い出しを行い、そこから3~4カ月位で交渉を含む取引先精査を行うということですね。

笠井:そうですね。通常ですと、4カ月位。お盆休みとかお正月に入ったりするとサプライヤーが止まるので5カ月かかる場合もありますが。

塚本:冒頭でおっしゃっていた購買プロセスの見直しというのもこの期間中に行うのでしょうか?

笠井:購買プロセスの本格的見直しは、コスト削減の目途がたってからですね。フェーズⅡですね。これが大体1カ月位ですね。だから、一つのプロジェクトで5~6か月位になります。

塚本:企業が間接経費削減に取り組むべきベストタイミングというのはありますか。

笠井:あります。売り上げが右肩下がりになってきた時に、コスト削減に入るのは得策ではないです。景気が良いと思っているときこそがベストなタイミングです。そして、大切なのは、常にコスト削減はやらなければいけない、というマインドが重要です。コストコントロールは必須ですから。

常にやっていかなければならないものであるにも関わらず、プロジェクトとして一大イベントみたいにやるから期待する効果が出ない、あるいは持続しません。

塚本:本来は習慣化しているべきことである、ということですね。

笠井:そうです。だからルール化していかなきゃいけないんですよ。ガバナンスが効いていなきゃいけないんです。ガバナンスを効かせるために、「これだけ下がりました。このラインは絶対維持しましょう」という所まできたら、そのラインでルール化をちゃんと敷く必要があります。そうすればちゃんととコントロールできます。

でも、なかなか自分でダイエットって出来ないじゃないですか。だから、僕はトレーナーの役割なんだと思ってます。ダイエットもコスト削減も、初めは追い込んでくれる人がいないと落ちないし続かないのかな、と。

塚本:確かにそうですね。トレーナーがいることで正常な形で目標を達成出来ますし、その後の維持も出来ますよね。ちなみに、サプライヤーが値段を下げやすい時期というのもあるんでしょうか。

笠井:あります。まさに今のタイミングですね。3末決算のサプライヤーが多いですから、今の時期から3月初旬にかけては本当にサプライのバーゲンの時期です。彼らも売上を上げなきゃいけないし、しかも今期計上できる売上を上げなきゃいけないという状況にいます。3月半ばぐらいになると決算を閉めるので、このタイミングでの問合せは4月に回ります。そうすると、そこまで値下げはしてこないのが普通です。

だから、ここはサプライヤーマネジメントで一番大事なところ。どこの担当者が売上達成していないかを見極める。これは、サプライヤーの営業の声を聞いていれば何となくわかりますし、ハッキリ聞いてみるときもあります。売上欲しいか欲しくないか。これが出来るのも、長年そういう付き合いをしてきているから聞けますし、話してもらえます。「いくらの商売あるけどいる?」と、気軽に話せる関係性がそこにある。だから、僕は彼らの営業に成れるんです。

塚本:そうすると、コスト削減したい企業としては、1月~3月初旬の今の時期がベストということですよね。

笠井:そうです。時期がもたらす恩恵って本当にすごいですよ。普段1週間積算見積りかかるのに、この時期に売上欲しい人たちは、「3日でください」って言ったら3日で出してきますからね。

塚本:なるだけ泣いてもらうところが少なくなるように尽力されている笠井さんだからこそ築けた関係性があり、その関係性の上だからこそ成り立つコスト削減のノウハウがあるのだと良く理解できました。

笠井:そうですね。サプライヤーを大切にしないと、みんな見積り出してくれなくなっちゃいますしね。そうなると下げれる経費も下がらない。下げれたとしても、それは「それなり」の削減で、他のコンサルと同じになってしまいます。

<Part 1はコチラ

まとめ

2020年第1回目の本記事では、間接経費削減をテーマに、その道のプロである笠井恒氏に間接経費削減のノウハウを事例と共に伺いました。笠井氏がおっしゃる通り、「高利益体制」は企業としては常に注力するべきスタンスであり、コストを限界値まで下げた筋肉質な体制を維持するための組織体制を構築するということは「特別」ではなく、「常」なのだということを改めて実感したインタビューとなりました。

昨今の米中対立や中東との緊迫した状況等、日本を取り巻く情勢は日々緊迫しており、変数が常に存在しています。

何かあってから焦るのではなく、常に「売上が2割減っても焦らずに攻めることの出来る体制」を視座に、組織の変革を行っていくことは決してマイナスになることはないはずです。

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