ハラスメント対策が法制化:あなたの企業は対応大丈夫?1/2

この記事のポイント
1.改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)の概要がわかる
2.ガイドライン整備のポイントがわかる
3.ハラスメント対応に関して、企業で何が起こっているかがわかる
【想定読了時間:10分】

この記事は次のような方にお勧めです:
1.ハラスメントやコンプライアンス問題に取り組んでいる企業様
2.組織の生産性を上げる人財活用の在り方を模索されている企業様
3.様々なフリーランスとしてのキャリアに興味のある方

2020年は年初から新型コロナウイルスが世界中に広がり、経済的にも働き方にも大きな影響を与える形となりました。現在、日本では緊急事態宣言は解除され日常を取り戻しつつありますが、まだまだ完全な終息は見えていません。

そんな状況の中、パワハラ防止法が6月より施行されました。ハラスメント防止対策の強化を目的に施行された同法により、どういった言動がハラスメントに該当するかを事業者はここれまで以上に注意を払っていく必要が出ています。コロナ明けの出社に伴い、ハラスメントへの対応は万全でしょうか?

PBJournalでは、2019年12月の記事にてコンプライアンスとコーポレートガバナンスに焦点を当て、日本と北米における取り組み方の違いや法的な観点からの違いを記載しました。今回は、パワハラ防止法(厚生労働省HP)の施行に伴い、ハラスメントやメンタルヘルス等を専門にコンサルティングを行っている根岸氏に、ハラスメント対策を行ううえで企業が気を付けるべきポイントを基に株式会社アイキューブのコンサルタント塚本がインタビューを行いました。

根岸勢津子氏のプロフィール

企業のメンタルヘルスケア・アドバイザー
株式会社プラネット代表取締役
外資系海運会社、IT企業などで秘書の経験を積んだのち、2000年に損保保代理店として独立。法人向けの使用者賠償責任を専門に損害保険を取り扱う中で、法人・団体を守るためには保険販売のみならずリスクマネジメントの考え方が必要と感じ、アドバイザーの経験を積む。その頃、産業界にヒューマンエラーによる不祥事が続発したことを受け、企業に対するメンタルヘルスケアやハラスメント対策、コンプライアンスの体制構築に関するアドバイスに注力して事業を進め、2006年より本領域にてコンサルティングを行っている。
実践! 労災リスクを防ぐ職場のメンタルヘルス5つのルール」の著者。

改正労働施策推進法のまとめ

パワーハラスメント対策強化のため、2020年6月1日より改正労働施策総合推進法が施行されます。これにより、職場におけるハラスメントに対し、企業は必要な措置を講じることが義務付けられることになります(通称「パワハラ防止法」)
※大企業は2020年6月1日。中小企業は2022年4月1日からの施行(それまでは努力義務)

下記は、パワハラ防止法の概要をリーフレットより引用したものです(参照1参照2


◆職場におけるパワハラの定義
①優越的な関係を背景とした言動であって、
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
③労働者の就業環境 が害されるものであり、この3要素を全て満たすもの。

◆事業主(企業)に求められるパワハラ防止のための措置(義務)

・ 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
・ 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
・ 職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
・ 上記のほか、性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報も含めた相談者・行為者等のプライバシーを保護し、その 旨労働者に周知すること 。パワハラの相談を理由として、解雇その他不利益取り扱いを禁止。

◆違反した場合の是正措置

具体対的な罰則は設けられていませんが厚生労働大臣が必要と認めた場合、以下のような措置がとられます。

  • パワハラ防止法規程に違反した場合、「勧告」「指導」の対象となる場合があり、またこれに従わなかった場合は企業名を公表
  • 防止措置の実施状況の報告をせず、または虚偽の報告をした場合二⼗万円以下の過料

上記に明記されている、ハラスメントにおける3つのキーワードは、①言動、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの、③就業環境 が害されるです。

これら3つに対して、企業は「方針等」の明確化及びその周知・啓発、加えて相談に応じ対応できる環境と事後対応が求められ います。

しかし、この「言動」は何をどの範囲まで発言、表出させた場合、「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」とされるべきであり、その言動が「就業環境をした」と判断されるべきなのでしょうか。

義務化された本法に企業が準じるためには、上記をどのように咀嚼し、運用レベルまで落とし込むかが鍵となります。

本インタビューでは、そのポイントを根岸氏に伺いました。

リスクマネジメントとハラスメント:押さえるべきは未然防止・事故時の初動・速やかな復旧

平時の準備が全て:抑えるポイント

塚本:根岸さんは、法人向けの賠償責任保険を販売するところから、保険代理店のキャリアをスタートさせたそうですが、その中に「使用者賠償責任保険」というものがあったのですね。

根岸:そうです。この保険は、業務中に従業員が傷病を負い、企業側が責任を問われて賠償をする場合に活用する保険です。そこには、従業員の自殺なども含まれます。こういったケースを取り扱う場合、企業に様々なヒアリングを行います。それがメンタルヘルス対策との出会いであり、労務コンサルティングをするきっかけとなしました。

そして、うつ病患者本人を取り巻く様々な登場人物がいることを初めて理解しました。主治医とか産業医とか、人事部とか弁護士とか、色んな人たちが病人を取り巻いて「あーでもない、こうでもない」って困っているんだということが分かりました。

そんな状況を俯瞰する中で、「やっぱり社内のルールづくりが大事じゃないのか」と考えたんですよね。それで、企業の人事部長や総務部長に助言して歩いていました。それが2006年ぐらいですかね。

塚本:なるほど。始まりは従業員のうつ病から来る自殺だった。それを保険屋さんの立場から「リスクヘッジしましょう」「何か起こってからでは遅いです。こんな事態になるんですよ」と、啓蒙されたところから今の根岸さんがあるんですね。

根岸:そうです。リスクマネジメントは、企業も個人も同じなんですよ。3つしかないんです:①未然防止、②事故時の初動、③速やかな復旧。この3つです。これは、ハラスメント対策やメンタルヘルス対応にも同様のことが言えます

未然防止:何を防ぐべきなのか、それを防ぐためには必要なことは何か。
事故時の初動:まず何をするべきか。この一手を間違うと、取り返しが付かなくなることも。未然防止が不十分、初動を間違えてことが大きくなった・・・。そうすると復旧できないことも。事後に慌てて初動を考えるのではなく、平時に何をすべきかを定める。
速やかな復旧:事後の迅速な復旧行動。①、②を定義した上で、復旧に何が必要かを平時に決めておく。

この3つを、平時に全てばっちりやっておくことがリスクマネジメントです。
平時に、です。これを出来ていない企業さんは多いです。ハラスメント対策においては、①の詰めが甘々と言っていいでしょう。

未然防止:何が問題なのか

ヒアリングを基に作成した企業ごとのルールブック例

誰でも分かる判断基準を作る

塚本:一部上場企業を含む大手企業をクライアントに、コンプライアンスやコーポレートガバナンス、メンタルヘルス、ハラスメント対策等、人事領域においてコンサルティングされている根岸さんですが、企業さんのハラスメントやメンタルヘルスなどへの対応はどういう状況なんでしょうか。

根岸:明確なガイドラインが無いというのが現状というところでしょうね。

塚本:大企業さんであれば、ちゃんと運用・管理がなされているかは置いておいても、一応それなりに規則等は持ってらっしゃるじゃないですか。規程だったり。

根岸:それが、そうでもないんですよ。ほとんど無いといってもいいかもしれません。

勿論、就業規則はありますよ。「第何条、休職。以下のものには休職を命ずる」みたいなね。で、その中に「心身の不調で就業できない者」というのはあります。でも、その下の規程が無いんですよ。規則の下の細かい決まりごとが、規程が無いんです。そうすると、色々な問題が発生してしまいます。従業員に訴えられそうになったりね。

結局、人が傷つく、傷つけられるみたいな話っていうのは「主観」です。色々な人の主観がぶつかりますし、当然利害も生じますので、企業や組織は状況に応じて「認められない」「認めたくない」っていうのは発生しますよね。

誰かが傷ついてから露呈しても、そもそもルールが無いわけですから判断ができない。
だから、揉めるんです。

塚本:前の記事にも書いたんですけど、「ハラスメント」には、明確な定義が無いんですよね。その中で、企業はハラスメント対応を求められているので、独自に取り決めなければいけない。それが出来たとしても、ハラスメント未満のものへの対応をどうするのか等は、全て企業が独自に判断し管理しなければいけない。

何を持って「善悪」を判断するのかが、管理する側もされる側も分かりづらい状況なのではないでしょうか。

根岸:そうです。だから、私はコンサルティングでそこを明確に定義するようにしています。ハラスメントとは別に、「礼儀・マナー」という項目も用意し、多くの人が不快に感じるであろう“アウトな行動”は、「禁止事項」としては明示するようにしています。

当然ですけど、殴る蹴るはダメ。ドアとかバーンと閉めるとか、不機嫌オーラを出したりとか。ちゃんと書きます。あとセクハラに関しても、お尻触る行為とか明記します。それから、飲めないお酒を無理やり飲ます行為だったり、ソーシャルネットワークサービスとかの「なんで俺のに“いいね!”しないんだ」とかね。

塚本:そうなんですね。それは、どのような形で行動や言動といったものを定義されているんでしょうか。

根岸:まず、俗にいう「ハラスメント」行為は列挙します。その際、会社側が一方的に定めるのではなく、従業員の声を聴くことがとても大切です。ですから、従業員ヒアリングを丁寧に行うようにしています。そのヒアリングのインプットを基に、その企業さんに添ったルールを作ります。

塚本:「不快感」という主観における公約数を出す、という感じでしょうか。

根岸:そう!結構企業によって違いますから。業界によっても違います。サービス業の中でも違うし、同業の工場でもまた違ったり。

よく聴いて作ります。

ヒアリングした結果の最大公約数を取るの。
だから、みんな「あっ!私達の意見が反映されてる」ってなります。

塚本:そうすると、納得感を持って「これはアウト」となりますよね。

根岸:そう、「通報していいよ」ってこと。どういう時通報したらいいのかわからないから、通報しない人もいっぱいいるんです。だから、このルールを作ることで、通報ラインっていうものを明確にするわけです。こうすることで、初動をどうするべきかが分かります。

”判断基準の先”を用意する

塚本:なるほど。通報するべき基準が出来た後の、「通報先」というのは根岸さんの方で準備されるんですか?

根岸:しますね。大体は、外部の専門家のフリーダイヤルを紹介します。EAP事業者さんを直接紹介し、そこと契約してもらいます。

塚本:外部に安心して相談できるところを用意するんですね。

根岸:そうですね。ただ、最近コンサルティングしてわかってきたのは、日本の従業員さんって優しいんですよ(笑)

「通報」の手前の「相談」を作って欲しいっていう声が多いんです。
きっと、「やっつけてくれ!」「懲戒してくれ!」っていう強いニュアンスで「通報」を捉えているんだと思います。なので、「これってちょっと変なんじゃないかしら?」っていうライトな相談の場所が欲しいって声が出てるんですよね。通報までしたくないけど相談したいみたいな。

なので、最近は、「これってどうなの?」みたいなものが相談できる相談窓口を社内に作ろうという動きが出てきました。若年層で運営する相談窓口とか。あと保健師さんとか労働組合とか「中立っぽい人」を社内において「心配な人はそこでも話ができるよ」みたいにしています。ハラスメント防止カフェとか。呼び名は企業さんによって違います。

白黒はっきりさせたい私としては、ちょっとモヤモヤするところもあるけど(笑)
ただ、企業さんによって何がフィットするかは違いますからね。その企業さんにとって必要なやり方を一緒に考え、提供できるようにしています。

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